BL麻雀

「小島さん入られまーす。」
スタジオに入ると若いADさんの元気な声に迎えられる。
「ああどうも、今日はよろしくお願いしますね」と小島はスタジオにいるスタッフ全員に挨拶をしていく。
10代の頃から雀ボーイとして麻雀に携わって60年。
Mr.麻雀と呼ばれるようになった今日まで麻雀のことを考えない日は一度もなかった。
ひとしきり挨拶を済ますとスタジオ中央にセットされている麻雀卓に向かう。
他の出演者はまだ来ていないようだ。

 

その日誰よりも先に卓に着き自分の感覚を卓に馴染ませていく、小島が昔から続けている習慣だ。
ゲン担ぎと言われればそれまでだが、事実今までの輝かしい戦績がその行為の正当性を物語っている。

今日使用する牌を確認する。少し触っただけでその牌の良さがわかる、冷たく滑らかで指に吸い付くような感覚である。ルーティーンを終わらせ、椅子に深くもたれかかった時、急に椅子に手足が固定された。

 

 

「ちょ、ちょっとスタッフさん、これどうなってるの?」
いきなりの状況に戸惑いを隠せない小島。
そこに不敵な笑みを浮かべた男がスタジオ入りしてきた。荒正義だ。

 

荒の大きめの眼鏡が放つ怪しい輝きに違和感を感じながらも、この不可解な状況に陥った小島は見慣れた顔がここにあるというだけで安心していた。

 

「荒さん、いいところに。ちょっと助けてくれない?何か変なことになっちゃってさ。」

 

「なにいってるんですか。こんなおいしいチャンス逃すわけないじゃないですか。」

荒のあまりの変貌っぷりに小島は言葉をなくしていた。

 

「小島さん言ってたでしょう?誰の挑戦でも受けると。そして僕は視聴者を楽しませて勝ってやると。だから僕は考えたんですよ。Mr.麻雀であるあなたを超えるにはどうすればいいかって・・・。その結論がこれですよ。」

 

「一体君は何を考えているんだ!今ならまだ冗談で許してやる。早くこの拘束を解きなさい!」

 

「そんな強気でいられるのも今のうちですよ。なんたって今日は3対1なんですから」

 

「な、何を言って・・・」

 

「おや、小島先生ともあろうお方がお忘れですか?麻雀は4人でやる競技なんですよ」
荒がそう答えるとスタジオに複数の人間が入ってくる。

 

畑正憲相談役に土田浩翔君・・・それに二階堂姉妹まで・・・」

 

「よーしよしよしよし、君も王国の動物たちのように可愛がってあげるからねぇ。ほら僕のムツゴロウ王国はこんなにもジャポニカ学習帳になっているんだから」
畑は肉食獣を思わせるような目つきでこちらを嘗め回すように見ている。

 

「まさかこのような形で先生と対局できるとは思いませんでした。今日は私の下のトイツシステムを実践させていただきます。」
土田の股間のチートイツはすでにテンパイの気配が濃厚である。

 

「それじゃあ始めようか。土田君。君が起家だよ。さあツモり給え。」

その言葉が合図であったように三人の手が小島に伸びる。
土田は小島のシャツをするりとまくり上げると、あらわになった小島のパイをツモり、じっくりとこねくり回すように盲牌をする。

 

「はぁ・・・くっ・・・こんな・・・こんなことをして・・・ただですむと・・・」

頭ではいけないとわかっていても押し寄せてくる快感の波に抗えない小島。

二階堂姉妹はこの状況に鼻血を垂らしながら日本プロ麻雀連盟の財源確保とでも言わんばかりに必死に薄い本の作成をしている。

 

「さあ小島先生の番ですよ。右手だけは自由にしましたから早くツモってくださいよ。パイをね。」荒正義が不自然なほどパイを強調しながら話しかけてくる。

「荒さん、どうやら自分のパイをツモってほしいようだが、そうはいかないな。私はあくまで麻雀をさせてもらうよ。」
シャツの上からでもくっきりとその位置が分かるパイを突き出した格好の荒は心底悲しそうな表情を浮かべている。正義(まさよし)のMはそっちのMだったのだ。

 

小島が麻雀牌に手を伸ばしたその時、自動卓が小島のパイを洗牌し始めた。
突然襲い掛かってきた快感の波に手元を狂わされ牌山を崩してしまった。

 

「おやおや小島先生ともあろうお方が自動卓に気をやってしまうとは。まさにMr.麻雀、そうとうなスキモノですね。
ともあれ牌山を崩した先生には罰符の点棒を出してもらいましょうか。こちらの点棒をね!畑相談役お願いします。」

土田浩翔がそう言うや否や畑正憲相談役がこちらに手を伸ばしてきた。

 

「よーしよし、ここをこうするとねー簡単にズボンが脱げるんですねー。おやおやー小島先生は千点棒かと思ってましたが、立派ですねー、これは1万点棒ですねー。」

 

自らの点棒を差し出したことがキッカケだったのか、Mr.麻雀は抵抗することを止めその狂乱の宴に飛びこんでいった。

チー、ポン、チー、ポン。パイのめくり合いの勝負に差し込み。リーチからの放銃。
点棒が行ったり来たり、切った張ったの鉄火場。これこそが真剣勝負、Mr.麻雀にふさわしい舞台がそこにはあったのだ。