Tiffany&co. その華麗なるビジネス戦略

ティファニーからのメールが止まるところを知らない。

 

昨年の10月にティファニーで商品を買い、お客様カードなるものにメールアドレスを登録してからというもの、ティファニーからメールがバンバン届く。

どれぐらい届くかというと、このぐらいだ。

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2017年10月27日~2018年8月25日までの間で66通ものメールが届いている。
何か法則性があるのかと思い、これを曜日で分けてみた結果がこれだ。

 

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まず目につくのが土日のメールの少なさだろう。
他の曜日に比べて圧倒的に少ない。この約10ヶ月の間に日曜にメールしてきたのは1回だけだ。
出会い系の掲示板で、平日の昼間しか会えないとか書き込んでる専業主婦からのメールの頻度ぐらいだ。

 

次に水・金のメールの多さにも注目してほしい。
週明けの月・火は仕事のモチベーションも低く手を抜いてしまいがちだが、
週の真ん中の水曜日には仕事のリズムにも慣れ、今週のタスクを意識しだす頃なのでメール作業も多くこなすことになる。
ただ、どうしても働くのが4日目ともなるとだれてしまう。それが木曜日。必然的にメールの数は減る。
そして金曜日。今日を乗り切れば土日の休みという事もあり、仕事にも精が出る。月曜から木曜で消化しきれなかったタスクを一気に消化する。
こんなサイクルでメール作業を行っているのだろう。

 

天下のティファニーといえど一般のサラリーマンの感性に寄り添う事で大衆性を世に示している。
こういう細かい所にも気を遣うのがティファニーティファニーたらしめている理由のひとつだろう。

視点を変えて今度は季節のイベントの前後のメールの様子を見ていきたい。
注目すべきは2017年11月末頃。12月に控えた一大イベントであるクリスマス。
ティファニーが一番力を入れていると言っても過言ではないクリスマスの布石は11月から打たれている。
その様子が分かるのが先ほどの画像と同じだが、こちら。

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書き出してみると

 

11月22日 件名「今年のクリスマスシーズンに送りたいティファニーの人気アイテム」
11月24日 件名「ティファニーでクリスマスのお祝いを」
11月27日 件名「ティファニーの新作デザイン」
11月28日 件名「日本限定:ティファニーボウペンダント」
11月29日 件名「大切な人への贈り物」
12月1日  件名「ティファニーのパーフェクトなギフト」
12月4日  件名「今ならまだ間に合うティファニーのギフト」
12月6日  件名「ティファニーの人気クリスマスアイテム」
12月8日  件名「クリスマスの新作Tiffany HardWear」
12月11日 件名「パーフェクトな贈り物:ティファニーT」
12月13日 件名「クリスマスをよりきらびやかにするティファニーの人気新作アイテム」
12月15日 件名「新作ティファニーTiffany HardWearデザイン」
12月18日 件名「まだ間に合う-ティファニーのクリスマスギフト」
12月22日 件名「エルサ・ペレッティのパーフェクトな贈り物」
12月23日 件名「クリスマスにぴったりなティファニーのギフト」
12月25日 件名「ティファニーからメリークリスマス」

怒涛の16通。恐怖すら感じる。


これをひどい振り方をしたけど付き合っていた時に言った「クリスマスは特別な時間にするから」という約束を何としても果たさせようとするメンヘラ女からのメールに変換するとこうなる。

 

11月22日 件名「久しぶり!クリスマスの約束覚えてる?」
11月24日 件名「楽しみ過ぎて1ヶ月も先なのに今からワクワクしてるよ」
11月27日 件名「忙しいのかな?クリスマスは大丈夫だよね?」
11月28日 件名「特別な時間ってなにしてくれるのかなあ」
11月29日 件名「プレゼントなんていいからね」
12月1日  件名「でもちょっとプレゼント、期待してます。なんて笑」
12月4日  件名「プレゼント迷ってるの?」
12月6日  件名「サプライズだから今は言えないのかな?」
12月8日  件名「会えるだけで嬉しいよ」
12月11日 件名「あと2週間だよー楽しみー><」
12月13日 件名「お仕事忙しいかな?」
12月15日 件名「あの約束嘘じゃないよね?」
12月18日 件名「返事ください」
12月22日 件名「返事しろ」
12月23日 件名「返事」
12月25日 件名「あなたに捨てられた女、ティファニーからメリークリスマス」

怖すぎる。

 

しかしこんな恐怖のメール群にもティファニーの繊細かつ大胆な戦略が隠されている。
大前提として「クリスマスには男性から女性へティファニーの商品をプレゼントすることが当たり前のこと」としてティファニーは話を進めてくる。
分かり切ったことだが「クリスマスにプレゼントを贈る」ことも「男性から女性にプレゼントを贈る」ことも「プレゼントはティファニーの商品である」ことも当然のことではない。
もちろん恋愛をきらびやかに彩るためにはこれらのことは「することが望ましい」ことであるが「しなければならない」ことではない。
しかしティファニーはそこを考えさせる暇を与えない。

 

心理学でデートの誘いを成功させるために
「デートに行く」か「デートに行かない」かを質問するのではなく
デートに行くなら「水族館に行く」か「遊園地に行く」かを質問するテクニックがあるがそれと全く同じだ。
デートに行くことを前提としてそこから一歩踏み込んだ質問をすることでデートの誘いの成功確率を上げている。

 

ティファニーも「クリスマスに男性から女性へティファニーの商品を当然プレゼントするでしょうから、こんな商品はいかがですか?」
というスタンスで16通もの商品を勧めるメールを送ってくる。
決してティファニーは闇雲にメールを連打しているわけではないことを理解していただきたい。

 

この大前提を踏まえたうえで、今度は基本的な男性の精神構造について。
ここもティファニーはきめ細かく考慮している。

 

まず基本的に男は先の事なんてあまり考えていない。犬・猫が明日について考えていないのと同じように1ヶ月も先の事なんて想像すらつかない。
考えが及ぶのはせいぜい良くて1週間~10日先ぐらいのことまでだろう。
だからこそ11月22日からクリスマスのことをアナウンスする。
それも1度だけではなくしつこいぐらいに。1回言ったぐらいじゃ男が覚えていないのもティファニーは分かっている。

 

男だってクリスマスがあるということぐらいはもちろん分かってはいるのだが、なにせ予定が立てられない。
しかも1か月前だったら「1ヶ月も先の事だし、まだまだ時間あるから大丈夫だろ」とか考えています。なんだったら本腰入れて動き出すのはクリスマスの3~4日前ぐらいからでしょう。
だからこそ1ヶ月前から何度もリマインドのメールを送る。こういう細かい取りこぼしをしないというビジネスにおける基本をしっかりおさえている。

 

これだけ言われれば男性にだって焦りが生まれます、そこに追い打ちをかけるように12月4日の「今ならまだ間に合うティファニーのギフト」です。
1ヶ月前から事あるごとに急かされ、内心まだまだ余裕と思っていた12月4日にこのメール。
まるで「今日動けばギリギリ何とかなるぞ、ただし今日を逃したらどうなるか分かるな?」という最後通告のように男性は感じる。こうなるとティファニーとしてはしめたものだ。
更にこれでも動かない腰の重い男に対しての救済措置としてクリスマス1週間前の12月18日にも「まだ間に合う-ティファニーのクリスマスギフト」である。
「色々急かしてごめんね、でも実はまだ間に合うの。でもこれが最後だからね」とこんなダメな男を慈愛の心で包み込んでくれる。ティファニーとは女神か。

 

ティファニーの優しさはこれだけではない。
男とは「時間も手間もかけたくないし、ブランド品の知識もないし、彼女の好みもあまり把握してないけど最高のプレゼントをしたい」と考えている偏った完璧主義者です。
そんな歪んだ考えでも、ティファニーはそれを叶えてくれる慈愛の女神だ。
「パーフェクト」「人気」「クリスマスにぴったり」「よりきらびやかに」という言葉を駆使して、
ティファニーの沢山の商品を前に思考停止した男に対し、「これ買っておけば無難やで」という商品を先回りして用意してくれているのだ。

 

これがクリスマスにおけるティファニーの戦略であり、更にこれだけで終わらないのがティファニーだ。クリスマス後に来たメールは先ほどの画像から抜粋、以下の通り。

 

12月27日 件名「New Year,New Tiffany
12月29日 件名「今すぐにティファニーのパーフェクトなギフトを」

 

どうにかクリスマスを切り抜け、皆が安堵から腰を下ろしているその時、ティファニーはもう前を向いて走りだしている。
そして息を尽かせぬ伝家の宝刀「今すぐ」「パーフェクトな」である。
12月29日は2017年のティファニー最終営業日。このメールが来たのは朝9時22分だった。
これはティファニーからの脅迫だ。
「今年最後の営業日よ。もちろんパーフェクトな商品を用意しているわ。あら、別に買いに来なくてもいいのよ。来年は自分の力だけでクリスマスを切り抜けられると思っているのならね。」
かくしてティファニーは数多くのリピーターを手に入れるのでした。

 

2月3月のイベントであるバレンタインデー、ホワイトデーもティファニーのクリスマス同様の戦略が炸裂します。
2月14日のバレンタインデーに向けては1月17日から
3月14日のホワイトデーに向けては2月23日からリマインドのメールが届きます。

こんな感じに

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ここで一つ疑問が湧きませんか?
「バレンタインデーは女性から男性にチョコレートをプレゼントする」のではないのか?という疑問です。
まだティファニーのことをよく分かっていないみたいですね。
「バレンタインデーは男性から女性にティファニーの商品をプレゼントすることが当たり前」なのですよ?
そしてもちろん「ホワイトデーは男性から女性にティファニーの商品をプレゼントすることが当たり前」ですから。

こうやってクリスマス、バレンタインデー、ホワイトデーと連日のように送ってきてたメールが3月14日を境にパタッと止まります。
ようやく次にメールが来るのが3月27日。これまで2週間もメールが途絶えたことなんかなかったのに。
貢がせるだけ貢がせて連絡が取れなくなったかと思えば、久しぶりに送ってきたメールの件名が「Believe In Love」

・・・何言ってるんだ。

 

信じるに決まっているでしょう!ティファニー様!!
一生ついていきます!