叫びながら寝る妻

5月に入籍して、8年交際していた妻と一緒に暮らしています。
8年も一緒にいるので、新婚と聞いて思い描く甘い生活はない代わりに、いい意味でお互いに期待しない安定した生活があります。

分かっていた事ですが他人同士が同じ空間で生活すると、やはりそれぞれの生活に対する価値観で相いれないものもあり、それをすり合わしているところです。
僕自身は特にこだわりがある方じゃないので、僕達の生活の細かいルールは基本的に妻に合わせる形にしています。
しかし決定的に違ったのは睡眠です。

 

僕は部屋を真っ暗にして、部屋のドアは閉め、静かな状態で寝たいと思っています。
暗くないと寝られないし、ドアが開いていると廊下を通る人の気配を感じてしまうし、なにか音が鳴っていると目が覚めてしまうからです。

一方妻は部屋は明るくして、扉という扉を開け放し、テレビをつけっぱなしにして寝ます。
暗いのは怖いし、扉を開けて人の気配(家にいる家族の気配)を感じて安心したいし、シーンとしてたら逆に微かな物音が気になって寝られないからテレビをつけていたいんだそうです。

これほど睡眠に対する考え方が食い違っていても、お互いに自分の理想を押し付けたりしません。
ここで明るくて音が鳴っていると睡眠の質が悪くなるとか、電気もテレビもつけっぱなしはお金の無駄とかそういう正論を持ち出すのではなく、
それぞれがお互いのやり方を尊重するスタンスが余計な摩擦を生み出さない結果になっていて、妻との考え方の相性の良さを感じます。
しかしそれぞれのやり方を尊重した結果、必然、僕達は別々の部屋で寝ることになりました。新婚生活一日目からです。

平日の余暇の過ごし方でも違いがありました。
僕は本を読んだり、ゲームをしたり、パソコンで動画を見たりブログを書いたり、最近は運動不足解消のために「その場足踏み」をしたりもしています。
妻はテレビ一本。テレビをずっとつけて自分の好きなバラエティー番組やドラマをずっと見ています。
感心するのはどの時間に何チャンネルで何がやっているかを完璧に把握しているところ。妻の頭には一週間の番組表が完璧に入っています。
「今日は何時からあれ見て、その後はあれ見て・・・」と毎日、本日のテレビ計画を話してきます。
特に今期のドラマは当たりが多いらしく、毎日ドラマを追うのに必死になっています。

ところで、妻はすぐに寝ます。さっきまで起きていたと思ったら急に寝ています。会話で妻から何か聞かれ、返答したら寝ていたこともありました。
先ほど「静かな空間では寝られないから寝るためにテレビをつける」と言いましたが、
正しくは「テレビを常につけていて見ながらいつの間にか寝てしまうからテレビがついたまま」です。
だから妻は追っているドラマの最中でも眠くなったら寝ていることが多いです。

そんな妻が唯一、今も寝ずに見れているドラマが山崎賢人主演の「グッド・ドクター」です。
9月6日の放送も勿論見ていました。
9月6日はモニタリングがスペシャル放送だったのでこの日の妻のテレビ計画は「20時~22時までモニタリング、22時からグッド・ドクター」を見るというものでした。
しかしこの日は特に眠かったのか20時からやっていたTBSのモニタリングの段階からうつらうつらとしていました。
そして22時が近づくころには妻は完全にソファーで寝落ちをしていました。
グッド・ドクターはフジテレビ放送なので、チャンネルを変えないといけません。
そして22時になろうかという瞬間、妻はパッと目を覚ましチャンネルをグッド・ドクターに合わせました。
「スゴイね」と僕が言うと「グッド・ドクターへの愛や」と寝起きのかすれ声で言っていました。

その後、妻はグッド・ドクターを見始めたのですが、やはり相当に眠かったのか22時30分頃にはまたうつらうつらとしだしました。
これはついにグッド・ドクターも今期ドラマの中から脱落かと思ったその時、妻はワーっと叫びだしました。
この世に眠気を取る方法はいくつもあります。
ガムを噛む・体をつねる・顔を洗う・コーヒーを飲む。ぱっと思いつくだけでもこれだけあります。ましてやここは自宅、いくらでもやり様はあります。
しかし妻が選んだのはそのどれでもないワーっと叫ぶ。
叫ぶと書きましたが5メートル先の人に話しかけるぐらいの声量のワーです。しかも先程の寝起きの状態のカラカラのかすれ声は健在。
眠気を我慢し続けてとうとう気が触れたかと思いました。
そして1分ほどワーワー言い続け、ぱったりと声が止まりました。
ようやく眠気が誤魔化せたのかと妻の方を見ると、そのワーが最後の言葉であったかのように安らかに眠っていました。
叫びながら寝る人を見たのは初めてでしたが、これも妻という人なのだと思い、その行動を尊重することにしました。
妻の今期のドラマは全滅です。