包茎が我々に与えるストレスとは
会社の新商品でストレスチェックと血管の健康具合を測定できる機械をテスト使用した。
小型の機械を人差し指に装着し、2分間喋らず、呼吸を整え、穏やかな気持ちで測定すると今の自分のストレスと血管の健康具合を知ることが出来る。
その結果がこちらだ。
細かく解説すると長くなるので簡単に説明するが、
この機械の測定によると現状、僕は心身ともにストレスに悩まされているわけではない事が分かる。
しかもストレス耐性が100点満点中87点とかなり強いようだ。
総評の所にも「運動選手と同じように、心肺機能やストレス対処能力が優れている」と出ている。
そして血管の健康具合。
こちらもかなりいい。
血管の弾性は並以上。
老化具合に至っては7段階中の1段階目(低い方が良い)と一番良い結果になった。
血管点数は96点と文句なしの超健康血管である。
総括すると健康状態、ストレス状態共に非常に良い結果となり、血管の状態も良好。
このままの生活を続けていくことが望まれるとのことだ。
思っていたよりもいい結果が得られて僕としては満足だったのだが、周りにいた職場の仲間たちは僕が健康だという事に何か不満げ。
「本当にちゃんと測定されているのか?」
「悪い方のテスト結果も見てみたい」
口ではそう言っているが
本心は「他人がすこぶる健康だと何か気に食わない」とでも言いたそうな表情だった。
そこで今度は「正しく測定されない場合はどうなるか」をチェックすることになった。
つまり「2分間喋らず、呼吸を整え、穏やかな気持ちで正しい測定」をするのではなく
「2分間喋り、呼吸を荒く、穏やかな気持ちにさせずに間違った測定」をしたらどうなるか試したいという事らしい。
そんなことに何の意味があるんだと思ったが、
同僚たち曰く「正しく測定せずに結果が同じだったら測定時の微妙な変化が結果に影響しないような精度の低い機械だという事になる」とのことなので
再度、正しくない測定法を行った。これが地獄だった。
測定を始めてすぐに何か話さないといけないとのことだったので、何を話そうか考えていると
「じゃあまずはマスオさんのモノマネして」と無茶ぶりをしてくる。
ちゃんと測定しないとどうなるかというテストなので一応マスオさんのモノマネを全力でする。
ここは職場なのにだ。
全力でモノマネをしたら皆「ああ…はは…」と苦笑い。
最初のモノマネ以上の力で「えぇー!リクエストにちゃんと応えたのにかい!?」とマスオ調で言いそうになった。
心臓がギュッと締め付けられるようだ。
それからも調子に乗った上司が「そういえば先週までに提出予定だった重要書類を出してないのはお前だけだったぞ。早く出すように」とそんな書類ないのにもかかわらずカマしてきたり、
同僚がこっちを見ながら電話をして「ただいま担当の者は席を外しておりまして、はい…はい…この度は大変申し訳ありません」とさも僕がしたミスをカバーしているみたいな小芝居をしてきたり、
女性社員は「実はtaxholicさんのコップ洗うの嫌で、taxholicさんのコップ洗い係のことを女性社員はみんな罰ゲームって言ってるんです」と言われたり、
2分間ストレスの測定をしながら、職場であったら嫌なことあるあるの実験台になった。
かけ続けられるストレス、上昇する体温、早くなる鼓動、吹き出す汗。
ありとあらゆる圧迫を職場で受け、ストレスチェックが終わった。
正しく測定した時に比べ、異常心拍数は大きく増加。測定中に自律神経の乱れが見られ、ストレス耐性はボロボロ。
特にマスオさんのモノマネの所は心拍数が跳ねあがっていた。
血管の弾性や老化具合などは変わらず1段階で良い結果だったが、心拍数・ストレスの結果が大きく足を引っ張った。
総括では「生活習慣を見直し、心のケアを行いましょう」との結果だった。
やはり、正しい測定をしないと結果にかなりの影響が出るという事が分かったのだが、
それ以上に僕の健康結果が悪く表示されたことを喜んでいる様子だった。
特に顕著だったのは後輩の岡林。
こいつは20代の癖に昨年の健康診断でメタボリックを診断されていた。
自分より悪い健康状態の人を見て安心しようとしたのか、測定中に一番熱を入れて僕を罵倒していたのが岡林だった。
今度は岡林が測定する番になった。
測定中、耳元で2分間「包茎」と言い続けてやった。
適当に言った悪口だったが、図星だったのか異常心拍数が僕より多かった。
社で掲げている岡林の今年の抱負の「一皮むけます」が風にはためいていた。