ボランティアはエンターテインメントだ
友人がFacebookに一つの動画を投稿した。
彼が企画した、ある野外イベントで設営されていたテントのペグ(地面に打ち付けてテントを固定させるための杭)を引き抜く動画だ。
たかがペグと侮るなかれ。
大きなテントを固定するために、しっかりと地面に打ち付けられており容易に抜くことが出来ない代物だった。
正しい抜き方なんてわからない故に、その動画では何人もの人が抜き方を考え、試していた。
最終的にペグを打ち付けたゴム製のハンマーでゴルフのスイングのように360°地面に埋まっているペグを叩くという方法を取った。
ハンマーを打ち付けるたびに少しずつ地面とペグの間に隙間が出来ていく。
それを続けること約1分、地面との隙間が大きくなりペグはグラグラと揺れ出す。
こうなれば後は引き抜くだけ。少しの引っ掛かりの後、ペグは天高く掲げられた。
その瞬間、ペグを抜くことに尽力していた周りの人達は一斉に歓声を上げた。
動画のタイトルは「アーサー王の誕生」
石に刺さった聖剣エクスカリバーを抜くアーサー王物語からなぞらえて、そう付けられた。
この動画を見ると今でもその時の興奮を思い出す。
私も円卓の騎士よろしくイベントスタッフとしてその場にいたからだ。
一緒にその動画を見ていた妻は特に何の感慨もない。
妻はイベント参加者で、その場にいなかった。
ペグを抜く。ただそれだけの動画なのだからその反応は当たり前だ。
むしろ「たったこれだけの事で何をそんなに盛り上がっているんだ?」とでも言いたそうな反応だった。
堀った土を戻すのが面倒という理由で「ペグの周りを掘る」という私の意見は却下されたが、
私はイベントスタッフとして、その場を共有していた。
妻はイベント参加者として、その場を共有していなかった。
その差がここに表れている。
妻はイベントの参加者としてイベント開催中の時間を楽しんでいた。
僕含めイベントスタッフはイベント中はもちろん、イベント前後の準備期間も楽しんでいた。
イベントスタッフは全員ボランティアだった。つまり労働力をタダで提供していた。
それでも、たったこれだけの事でも楽しい。
エンターテインメントというものは受け取るよりも作る方が面白いのかもしれない。
これを踏まえて東京オリンピックのボランティアについて。
東京2020大会ボランティアボランティアホームページの「お渡しするグッズ等」より
「滞在先から会場までの交通費については一定額相当分(1,000円/日)の物品の提供がある」が
「滞在先までの交通費や宿泊費は自己負担・自己手配」だそうだ。
労働力の提供だけでなく、金銭的な負担もあるというのは如何なものかと物議を醸している。
もちろんボランティア参加者に対して十分なサポートは行われるべきだと思う。
ただ、そこに価値がないかと言われればそうでもない。
イベントの制作は楽しい。それこそお金を払ってもいいと思えるぐらい価値を見出す人もいる。
少し前の私だったら「無給で働かせて、しかもお金まで出させるとかダメだろ」と思っていましたが、お金を払ってイベントを作る側に回る事があり得ると知ってしまった。
エンターテインメントへの接し方が一つじゃないということに気付いている人から東京オリンピックのボランティアへの参加に手を上げているのかもしれない。