正月に妻の実家に行きたくない

正月の過ごし方を妻と話し合った。

 

今まで他人だった者同士が精神的な結びつきはあるものの、

紙一つで強引に一つの家族となるのだから習慣が違うのは理解していたつもりだった。

 

しかし結婚してから初めての正月をどう過ごすかについて話し合った結果、ここまで違うものかと思った。

 

私の家の正月といえば、1月1日は実家で過ごす。特に親戚が集まることはない。

まず朝食は各々が用意して食べる。

お昼になるとお節料理とお雑煮が食卓に並ぶので、そこで初めて家族そろって一緒に食事をする。

ちなみに家族が全員そろって食事をするのは1年の内この時だけだ。

それだけが我が家の正月の恒例行事なので、この日これ以降は家族で行動することはない。

 

そして2日・3日にそれぞれの祖父・祖母の家に行き新年のあいさつをする。

これも各々が好きな時にバラバラに行く。

そしてこの時はお節料理やお雑煮を食べることはない。

要するに親戚付き合いは極めて希薄で、家族のイベント事に無関心な家庭なのだ。

そんな家庭で育ったので、年末年始だからといって特に何か家族でしなくてもいいんじゃないかと私は思っている。

新年の挨拶をして、ちょっと一緒にお茶を飲んだらそれで解散くらいでいいかと思っている。

実際に両親に正月どうしたらいいか聞いてみたところ

「別に来たかったら来たらいいんじゃない?でもあんまりベッタリっていうのもお互いねえ…」

となんともドライな返答だった。

 

しかし妻は違う。

妻の家は1月1日から2日にかけて妻の祖父の家に行く。

そこには妻の祖父・祖母・妻の両親・妻の叔母家族・妻の兄家族が一緒になって新年を祝うそうだ。

1日の昼から祖父・祖母の家に行きお昼ご飯を一緒に食べる。

その後リビングで一族そろってくつろぎながら近況報告をするそうだ。

「お昼ご飯を食べてお腹いっぱいの状態でホットカーペットが敷かれたリビングでくつろいでいると眠くなって寝てしまう。気付いたら皆でお昼寝してたよ」

とは妻の言葉。

そして夜は一族そろって食卓を囲み鍋を食べる。

その後はまたリビングでくつろぎ、順番に風呂に入りそれぞれのタイミングで寝る。

 

次の日も一族で朝食を共にして初詣に行き、毎年恒例の和食屋に行き昼食を取る。

その後、各々で解散する。

これが妻の年始の過ごし方だそうだ。

 

ここに自分が参加することを想像しただけで眩暈がする。

なんというか家族の濃さに胸やけしそうだ。

 

一つ一つ胸やけポイントを整理していくと、

集まる親戚の数が尋常じゃない。

私の結婚式でもここまで集まらない。

私と妻を入れて集まる人数を数えると総勢11人。サッカーでもやるのだろうか。

妻の叔母家族なんて絶対に話す話題がない。

妻がトイレに行っている間、私は一体何を話せばいいのだろうか。

妻の祖父は国鉄の職員だった方で、誰に対しても(特に若い人には)国鉄時代のストライキの話をエンドレスリピートするらしい。

「次の正月の時、おじいちゃんの生贄は君だね」

と妻の兄に言われた。

妻の祖父は私達の村を脅かす魔物か何かですか?

 

皆でリビングでくつろいで、昼寝までする。

絶対に出来ない。まずくつろげる瞬間は来るのだろうか?いや、ない。

家族間の悲劇はこういう所から生まれる。

なぜ気付かないのだろうか。

妻やその家族にとっては、そもそも親類縁者であるし、その距離間で付き合う空間に何の遠慮も違和感もないのだろうが、私は違う。

「自分がこう感じるのだから、相手もこう感じるだろう」

そういうことではない。

人にはそれぞれの価値観がある。しかし何故かそれを見落としてしまう人がいる。

意外と見失いがちな視点だ。

今、その見失われた視点により悲劇がまたここに。

全く知らない、しかも向こうは血の縁がある所に単身乗り込んでいく私の気持ちを推し量ってほしいところだが、どうもそうはならないようだ。

そんな空間で昼寝。しっかりお布団に入って暗くしないと寝られない私が寝られるとは思えない。

皆が寝てしまって妻の叔母と二人きりとなったらどうすればいいのだろう。

結婚生活の秘訣でも聞けばいいのだろうか。そんな話題、10分も持てばいい方だ。

 

夜には皆で鍋をつつく。

私は潔癖ではないので、例えば友人達と鍋をつつくことに抵抗はないが、この状況ではどうだろう。

同じ鍋で食事できるかどうかは、なんとなくだが、どの程度打ち解けられているかが指標になるような気がする。

そしてその指標で言えば多分アウトだ。ギリギリではなく結構はっきりとアウトだ。野球だったら「リクエスト」の申請もしないぐらいのアウト具合だ。

そういえば、妻の義理の姉(妻の兄の妻)は私と同じ立場だ。

前の正月から参加しているようで、唯一私と同じ思いを共有できる仲間だと思ったので、

妻に「君の義理のお姉さんはどんな感じだった?」と聞いてみた。

すると昼寝もしてたし鍋もモリモリ食べていたとのことだ。

孤軍奮闘。

何故かこの四文字が私の頭の中に浮かんだ。

 

地味に嫌なのがお風呂の順番と寝る環境についてだ。

妻の祖父や祖母は早くに寝るそうなので必然お風呂も最初に入るのだろうが、

おそらく私は早めの順番で入るように促されるだろう。

風呂は自分のタイミングで入りたい。

そして寒い時期は風呂に入った後すぐに温かい体のまま布団に入りたい。

こんなことすら自分の思い通りにはならないだろう。

そして次の日の朝、洗面をするのは?髭を剃るのは?髪を直すのは?

他人の家、しかも姻族の家を自分勝手に使うことが憚られてしまう。

行動のいちいちに気を使ってしまい気疲れすることだろう。

 

そして妻の祖父の家に行ってから24時間。

ようやくここで解散だ。

海外ドラマの24は手に汗握る名作だが、こっちの24も色んな所から汗が出そうな名作となっている。

 

私と同じ感覚を持っている母にこの事を伝えると一言

「頑張って」

と言われた。

 

私は常々、色々な事にこだわりがないと言ってきたが

こだわりがない人がこだわりがある人に合わせる事に疑問を抱いている。

私には「こだわりがない」というこだわりがあるのだ。

だからこだわらず適当に過ごすというこだわりに合わせてほしい。

なんて屁理屈をこねている、実際に妻に言うと大喧嘩になる事は目に見えているので言わないが。

 

つまり色々と言っていたが要するに正月に妻の実家に行きたくない。