妻が口をきいてくれない4
妻の作る料理は美味しい。
そもそも作ってもらう事だけでもありがたいのに、
品数が多く栄養バランスも考えられていて美味しい。まさに非の打ち所がない。
そんな妻が料理のレパートリーを増やすためにABCクッキングスタジオに体験レッスンを受けに行くと言った。
仲の良い友人と二人で行くそうだ。
今のままでも十分なのに、更に料理の腕を上げようとする妻の探求心には頭が下がる。
こちらとしては願ったり叶ったりなので、更に美味しい妻の料理を食べられるのかと期待を込めて送り出した。
体験レッスンで作るレシピは
だったらしい。
ABCクッキングスタジオのホームページより、料理の写真はこちら。
ABCクッキングスタジオでもこういう魅せるレシピをやるんだなと思った。
体験レッスンだから料理研究というより、料理体験の間口を広くとることに重きを置いているのか。
栗ご飯・さんまの塩焼き・豚汁・キノコのホイル焼き・筑前煮。正直こういうレシピをやると思っていたので意外だった。
2時間の体験レッスンの後、妻から画像付きでメッセージが届いた。
「今レッスン終わったよー。友達が作ったのがこれだよ。」
ふむ、ABCクッキングスタジオの参考画像とほぼ同じだ。
流石は天下のABCクッキングスタジオだ。
体験レッスンでここまでクオリティーの高い料理を作れるように指導するとは、培ってきたノウハウとプロの講師の指導力の賜物だと言えるだろう。
「で私が作ったのがこれ。どう?」
「どう?」とは?
私は伊達に30年も生きてきてはいない。
こういう時に女性を喜ばせる言葉も少なからず知っているつもりだ。
「すごく美味しそう!」
「可愛いね!」
「今度作って欲しいな!」
これらを単体で使ってもいいし、組み合わせれば尚良し。
しかし最適解を知っていても抑えきれない感情が湧き上がってきて、ついこう言ってしまった。
「すげえ捻くれた顔してるな。何故片方の口角が不自然に上がっているんだ?
エロ雑誌の裏の広告ページで金のプールで女を両手に抱いている男と同じ顔してるわこいつ。
野菜を両手にせしめてビーフストロガノフのプールで泳ぐ、野菜でのし上がった成金みてえなストーリーが思い浮かぶわ」
妻からの返信はなかった。
そして今、これを書いている横で妻が料理をしている。
リビングにまでビーフストロガノフのいい匂いが漂ってきている。
今夜はごちそうだ。
妻だけ。